試用期間中の従業員について、「期待した働き方と違うので本採用を見送りたい」「もう少し適性を見たいので期間を延長したい」と考えることがあります。
しかし、本採用拒否は法的には解雇であり、試用期間中なら自由に行えるわけではありません。また、試用期間の延長も、会社の判断だけで自由に行えるものではありません。
この記事では、本採用拒否の判断基準、雇入れの日から14日を超えた場合の解雇予告、就業規則に定める延長条項と実務手順を整理します。なお、この記事は、期間の定めのない労働契約に試用期間を設ける一般的なケースを前提としています。有期労働契約では、契約期間と試用期間の法的性質を区別し、期間途中の解雇や雇止めに関するルールを別途確認する必要があります。
この記事の結論
- 本採用拒否は、留保解約権の行使としての解雇にあたります
- 通常の解雇より広い判断余地が認められる場合はありますが、客観的な事実と相当性が必要です
- 雇入れの日から14日を超えた場合は、原則として30日前の解雇予告または不足日数分の解雇予告手当が必要です
- 試用期間を会社が一方的に延長するには、就業規則などの根拠が必要です
- 延長時は、理由・期間・評価項目・改善目標を書面で明確にし、指導記録を残すことが重要です
根拠条文
労働契約法は2008年3月1日、労働基準法は1947年9月1日に施行されました。以下は、2026年9月13日現在の条文のうち、この記事に直接関係する部分です。
労働契約法第16条
解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。
本採用拒否も解雇にあたるため、この解雇権濫用法理が適用されます。
労働基準法第20条第1項
使用者は、労働者を解雇しようとする場合においては、少くとも三十日前にその予告をしなければならない。三十日前に予告をしない使用者は、三十日分以上の平均賃金を支払わなければならない。ただし、天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となつた場合又は労働者の責に帰すべき事由に基いて解雇する場合においては、この限りでない。
労働基準法第21条第4号
前条の規定は、左の各号の一に該当する労働者については適用しない。ただし、(略)第四号に該当する者が十四日を超えて引き続き使用されるに至つた場合においては、この限りでない。
四 試の使用期間中の者
雇入れの日から14日以内は第20条の解雇予告制度が適用されない場合があります。ただし、これは解雇理由まで不要になるという意味ではありません。本採用拒否の合理性・相当性や、労働基準法第19条の解雇制限などは別に判断する必要があります。
労働基準法第19条第1項
使用者は、労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかり療養のために休業する期間及びその後三十日間並びに産前産後の女性が第六十五条の規定によつて休業する期間及びその後三十日間は、解雇してはならない。ただし、使用者が、第八十一条の規定によつて打切補償を支払う場合又は天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となつた場合においては、この限りでない。
試用期間中であっても、この解雇制限は適用されます。
本採用拒否は「試用期間中だから」で正当化できない
最高裁は、試用期間を「解約権留保付労働契約」と捉え、採用時に十分把握できなかった事情を試用期間中に確認するという制度趣旨から、通常の解雇より広い範囲で本採用拒否が認められ得るとしています。
一方で、採用当時に知ることができず、また知ることが期待できない事実を後から把握し、その事実に照らして雇用継続が適当でないとする判断に客観的な相当性があることが必要です(三菱樹脂事件・最高裁大法廷昭和48年12月12日判決)。
本採用拒否の根拠になり得る例
- 採用判断に重大な影響を与える経歴詐称が判明した
- 正当な理由のない遅刻・欠勤が続き、複数回の注意や指導でも改善しない
- 業務に不可欠な資格・免許を保有していると申告していたが、その申告が事実と異なることが判明した
- 採用時に明示・合意した職務内容や能力水準を著しく満たさず、具体的な指導や改善機会を設けても改善が見込めない
これらも、事実関係、職務内容、採用時の説明、指導の有無などによって結論が変わります。
本採用拒否の根拠として弱い例
- 「社風に合わない」「期待と違った」など、評価基準が不明確である
- 能力不足を主張しているが、具体的な業務上の支障を説明できない
- 注意・指導・面談を行わず、改善の機会も与えていない
- 試用期間の途中で、評価に必要な期間を経ずに結論を出している
本採用拒否を検討する場合は、評価表、面談記録、指導書、本人の説明、改善状況を時系列で整理する必要があります。
雇入れの日から14日を超えた本採用拒否には解雇予告が必要
雇入れの日から14日を超えて引き続き使用した従業員を本採用拒否する場合は、原則として、次のいずれかの対応が必要です。
- 30日前までに解雇を予告する
- 30日分以上の平均賃金を解雇予告手当として支払う
- 予告期間と解雇予告手当を組み合わせる
たとえば、試用期間満了日の10日前に本採用拒否を通知し、満了日に雇用を終了させる場合は、原則として30日に不足する20日分以上の解雇予告手当が必要です。具体的な不足日数は、通知日と解雇日を確認して算定します。
解雇予告は手続き上の要件です。予告または手当を適切に行っても、本採用拒否の理由自体に合理性・相当性がなければ、解雇が有効になるとは限りません。
試用期間の延長は就業規則に根拠を設ける
試用期間の延長は、従業員を不安定な地位に置く期間を長くする措置です。そのため、会社が一方的に延長するには、あらかじめ就業規則などに根拠を設けておく必要があります。
延長条項に定める内容
- 延長する場合があること
- 延長事由(欠勤により評価期間が不足した場合、業務習熟度を追加確認する場合など)
- 延長できる期間と上限
- 延長後の評価項目と判断時期
「会社が必要と認めた場合は延長できる」という包括的な文言だけでは、判断基準が不明確になりやすいため、具体的な延長事由と上限を定めます。
延長時の実務手順
- 試用期間満了前に、就業規則の根拠条項と延長事由を確認する
- 評価表・勤怠・指導記録に基づき、延長の必要性を判断する
- 本人へ延長理由、延長期間、評価項目、改善目標を説明する
- 「試用期間延長通知書」などの書面を交付する
- 延長期間中の面談・指導・改善状況を記録する
- 延長後の期限までに、本採用または本採用拒否を判断する
就業規則を変更するときの手続き
常時10人以上の労働者を使用する事業場で延長条項を追加・変更する場合は、労働基準法第89条・第90条に基づき、労働者の過半数代表者等の意見書を添えて所轄労働基準監督署へ届け出ます。また、同法第106条に基づく周知も必要です。
就業規則の作成・届出義務に違反した場合は、同法第120条第1号により30万円以下の罰金の対象となります。解雇予告義務に違反した場合は、同法第119条第1号により6か月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金の対象となります。罰則表記の「拘禁刑」は、2025年6月1日施行の刑法改正を反映したものです。
よくある質問
就業規則に延長規定がなくても、本人が同意すれば延長できますか
本人の同意があれば常に有効になるわけではありません。裁判例では、個別同意も延長の根拠になり得るとしつつ、職務適性を見極めるためのやむを得ない事情があり、必要最小限度の期間であることなどが問題とされています。
就業規則に根拠がない状態で安易に延長せず、規定整備の要否と個別事案の事情を確認してください。この裁判例は、明治機械事件(東京地方裁判所2020年9月28日判決、平成31年(ワ)第10546号、判例時報2493号103頁)です。
試用期間満了の10日前に本採用拒否を決めた場合、満了日に終了できますか
雇入れの日から14日を超えている場合、原則として不足する20日分以上の解雇予告手当を支払う必要があります。手当を支払わず30日の予告期間を置く場合は、試用期間満了後から解雇日までの身分、就労の扱い、賃金を明確にします。
業務上のケガで休業中の従業員を本採用拒否できますか
原則としてできません。労働基準法第19条第1項により、業務上の傷病による療養休業期間とその後30日間は解雇が制限されます。試用期間中であっても同様です。例外の適用可否を含め、個別事案では慎重な確認が必要です。
まとめ
本採用拒否と試用期間の延長は、いずれも「試用期間だから柔軟に決められる」と考えると紛争につながります。
本採用拒否では、客観的な評価基準、具体的事実、指導・改善機会、記録をそろえます。延長では、就業規則の根拠、延長事由、期間上限、評価項目を書面で明確にします。雇入れの日から14日を超えている場合は、解雇予告または解雇予告手当も忘れずに確認してください。
一次情報・参考資料
- e-Gov法令検索|労働契約法
- e-Gov法令検索|労働基準法
- 裁判所|三菱樹脂事件・最高裁大法廷1973年12月12日判決
- 厚生労働省|労働契約の終了に関するルール
- 中央労働委員会|試用期間中の解雇
- 中央労働委員会|試用期間終了後の本採用拒否
- 全国労働基準関係団体連合会|明治機械事件




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