パート従業員から「うちの会社は社会保険に入らなくていいんですよね」と言われたが、従業員数が増えてきて本当にそのままでよいのか気になる——。このテーマの疑問は、だいたい次のことが多いです。
- 自社が「対象企業」に当たるかどうかの人数の数え方
- 対象になった場合、どのパート・アルバイトが加入対象か
- 賃金や労働時間の要件
- 会社側の届出義務と、怠った場合の扱い
この記事では、2024年10月以降の企業規模要件と、短時間労働者本人の加入要件を、届出義務まで含めて整理します(作成日:2026年9月22日)。
この記事の結論
厚生年金保険の被保険者数が常時51人以上の企業等(特定適用事業所)では、週の所定労働時間が20時間以上などの要件を満たす短時間労働者は、健康保険・厚生年金保険への加入が義務になります。法人事業所では、同一法人番号に属するすべての適用事業所の厚生年金保険被保険者数を合算し、個人事業所では事業所単位で判定します。通常の労働者の4分の3未満である短時間労働者は、適用拡大によりすでに被保険者となっている場合でも、この人数には含めません。
常時51人以上かどうかは、直近12か月のうち6か月で判定する
企業規模要件は「今その瞬間の人数」ではなく、直近12か月のうち6か月以上、厚生年金保険の被保険者数が51人以上になったかどうかで判定します。一度この基準に達すると、その後人数が51人を下回っても、原則として特定適用事業所の扱いは維持されます。この扱いをやめるには、厚生年金保険の被保険者・70歳以上被用者・短時間労働者を含めた対象者の4分の3以上の同意を得たうえで、日本年金機構へ「特定適用事業所不該当届」を提出する必要があります。
例えば、飲食業で企業規模判定の対象となる厚生年金保険被保険者が45人おり、繁忙期に4分の3基準未満のパートが増える場合でも、その短時間労働者は人数に含めません。4分の3基準未満の短時間労働者は、週20時間以上などの要件を満たしてすでに加入している場合も、企業規模判定の人数から除外されます。
2026年9月30日までの加入要件は4つすべてを満たす場合に限られる
特定適用事業所であっても、2026年9月30日までは、次の4要件をすべて満たす短時間労働者だけが新たに加入対象になります。
- 週の所定労働時間が20時間以上であること
- 雇用期間が2か月を超えて見込まれること
- 学生でないこと(夜間・定時制等の一部例外あり)
- 所定内賃金が月額8.8万円以上であること
2026年10月1日から、一般の短時間労働者について月額8.8万円以上の賃金要件は撤廃されます。ただし、最低賃金法第7条の減額特例の対象者には別の取扱いがあります。詳細は下記「発展・関連視点」を参照してください。
なお、雇用保険の加入要件(週20時間以上かつ31日以上の雇用見込みがあれば、企業規模や賃金額を問わず加入)とは異なり、社会保険の短時間労働者への適用拡大には、2026年9月30日までは「特定適用事業所(51人以上)に該当すること」と「賃金要件(月額8.8万円以上)」が別途加わる点に注意が必要です。
例えば、週の所定労働時間が18時間の契約でも、実態として直近複数月にわたり週20時間以上の勤務が続いている場合は、加入対象と判断されることがあります。契約上の時間だけでなく実態勤務時間の確認が必要です。
手続き上の義務
特定適用事業所に該当した場合、事業主は日本年金機構へ「特定適用事業所該当届」を提出する義務があります。提出期限は、特定適用事業所に該当した事実の発生から5日以内です。新たに加入対象となった短時間労働者についても、被保険者資格取得の事実発生から5日以内に「被保険者資格取得届」を提出する必要があります。
違反した場合の罰則
正当な理由なく届出を行わない場合や、被保険者資格の届出を怠った場合、健康保険法・厚生年金保険法上、6か月以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金の対象となり得ます(健康保険法第208条、厚生年金保険法第102条。拘禁刑の施行日:2025年6月1日)。また、届出漏れが判明した場合は、事実が発生した時点に遡って資格取得手続きと保険料の納付が必要になることがあります。
補足:実務上の論点
「うちは51人未満だから関係ない」と考えていても、同一法人(同一の法人番号)内で複数の事業所を合算すると、パート比率の高い業種では想定より早く51人に達することがあります。人数のカウント方法(法人単位・6か月判定)を年に一度は確認しておくと、届出漏れを防げます。
また、加入漏れが発覚して過去分の保険料(本人負担分を含む)を事業主が一時的に立て替えて納付しても、その全額を後日の給与から当然に一括控除できるとは限りません。健康保険法第167条・厚生年金保険法第84条が直接認める給与からの源泉控除は原則として前月分であるため、複数月分を遡って回収する場合は、労働基準法第24条(賃金全額払の原則)も踏まえ、労働者の自由意思に基づく個別合意や賃金控除協定など、適法な回収方法を確認する必要があります。
発展・関連視点
「社会経済の変化を踏まえた年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する等の法律」(令和7年法律第74号、2025年6月20日公布)により、月額8.8万円以上という賃金要件は2026年10月1日に撤廃されます。ただし、最低賃金法第7条の減額特例の対象者で月額8.8万円未満の人は原則として加入対象外となり、申出による任意加入制度が設けられます。
企業規模要件も、次のとおり段階的に縮小・撤廃されます。
- 36人以上:2027年10月1日から
- 21人以上:2029年10月1日から
- 11人以上:2032年10月1日から
- 企業規模要件の撤廃:2035年10月1日から
本記事は2026年9月22日時点の現行制度を基準としているため、賃金要件に関する説明は2026年9月30日までの取扱いです。
よくある実務事例Q&A
Q&A|パートを含めた合計人数が51人を超えたら対象になる?
正社員(フルタイム)が30人、通常の労働者の4分の3未満で週20時間勤務のパートタイマーが30人(合計60人)在籍している場合、常時51人以上の特定適用事業所に該当するでしょうか。
51人のカウント対象になるのは、厚生年金保険の被保険者のうち、正社員などの通常の労働者と、週の所定労働時間・1か月の所定労働日数が通常の労働者の4分の3以上である常用パートです。4分の3未満の短時間労働者は、適用拡大によりすでに被保険者となっている場合でも、カウント対象に含まれません。上記の例では、カウント対象は正社員の30人のみとなり、51人未満のため特定適用事業所には該当しません。
なお、同一法人(同一の法人番号)であれば、本社・支店・店舗など複数の事業所の被保険者数を合算して判定します。ただし、親会社・子会社など法人番号が異なるグループ会社は合算せず、法人ごとに独立して判定します。
Q&A|残業代や通勤手当を含めると8.8万円を超える場合は?
基本給に加えて残業代(時間外・休日・深夜割増賃金)、通勤手当、家族手当、賞与が支払われているパート従業員について、これらを合算した金額で月額8.8万円以上かどうかを判定するのでしょうか。
2026年9月30日までの月額8.8万円以上の判定には、基本給および算入対象となる所定内の諸手当を用います。次の賃金は算定から除外されます。
- 臨時に支払われる賃金および1か月を超える期間ごとに支払われる賃金(賞与等)
- 時間外労働・休日労働・深夜労働に対する割増賃金(残業代等)
- 精皆勤手当・通勤手当・家族手当
したがって、上記の例では残業代・通勤手当・家族手当・賞与を除き、基本給と算入対象となる所定内手当で8.8万円以上かどうかを判定します。なお、この賃金要件は2026年10月1日に撤廃されます。
Q&A|契約は週18時間でも、実際は週20時間以上働いている場合は?
雇用契約書上の所定労働時間は週18時間だが、恒常的な残業やシフト追加により、実際の労働時間が直近2か月連続で週20時間以上となっている場合、契約書を変更していなくても加入義務は生じるでしょうか。
契約上の所定労働時間が週20時間未満でも、残業等を含めた実際の労働時間が直近2か月連続で週20時間以上となり、その後も同様の状態が続くと見込まれる場合は、実際の労働時間が週20時間以上となった月の3か月目の初日に被保険者資格を取得する扱いになります。契約書の記載だけでなく、勤怠実態の確認が必要です。


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