毎月の給与計算では、社宅費や貸付金の天引き、口座振込の方法、過払い分の精算などで判断に迷うことがあります。
労働基準法第24条は、賃金を確実に労働者本人へ渡すため、「通貨払い・直接払い・全額払い・毎月1回以上払い・一定期日払い」の5原則を定めています。
この記事では、給与計算・労務管理の担当者向けに、5原則と主な例外、実務上の注意点を整理します。
この記事の結論
賃金は、①通貨で、②労働者本人に直接、③全額を、④毎月1回以上、⑤一定の期日に支払うのが原則です。
口座振込、デジタル払い、社宅費などの給与天引きには、それぞれ法令上の条件があります。本人の同意だけでは足りない場合もあるため、支払方法や控除項目を変更する前に、労使協定・就業規則・個別同意の要否を確認することが重要です。
根拠条文
賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。ただし、法令若しくは労働協約に別段の定めがある場合又は厚生労働省令で定める賃金について確実な支払の方法で厚生労働省令で定めるものによる場合においては、通貨以外のもので支払い、また、法令に別段の定めがある場合又は当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定がある場合においては、賃金の一部を控除して支払うことができる。
労働基準法は2026年7月17日施行の現行条文、賃金のデジタル払いは2023年4月1日施行の労働基準法施行規則に基づきます。
賃金支払の5原則と例外
賃金は通貨払いが原則で、口座振込等には条件がある
賃金は日本円の通貨で支払うのが原則です。商品券、自社商品、現金化できないポイント、暗号資産による支払いは認められません。
労働者の同意がある場合は、本人名義の預貯金口座や証券総合口座への振込が可能です。厚生労働大臣の指定を受けた資金移動業者の口座を利用するデジタル払いは、労使協定の締結、制度の説明、労働者本人の個別同意などが必要です。希望しない労働者へ強制できません。
賃金は労働者本人へ直接支払う
家族、親権者、代理人に支払うことは原則として認められません。労働者が賃金債権を第三者へ譲渡しても、使用者は労働者本人へ支払う必要があります。
本人の意思を受けて受け取るだけの「使者」への支払いは例外的に認められます。ただし、代理受領との区別が難しいため、実務上は本人名義の口座へ振り込む方法が安全です。
賃金は全額払いが原則で、任意の天引きには労使協定が必要
源泉所得税、住民税、社会保険料など、法令に根拠がある控除は認められます。
社宅費、食事代、親睦会費、貸付金返済などを控除する場合は、過半数労働組合または過半数代表者との書面による賃金控除協定が必要です。協定には控除項目を具体的に定めます。
賃金控除協定だけで、個々の労働者に控除を受け入れる義務が当然に生じるわけではありません。就業規則、賃金規程、労働契約、個別同意など、控除の根拠も確認してください。
賃金は毎月1回以上支払う
月給や年俸制の賃金も、原則として毎月1回以上の支払いが必要です。
臨時に支払われる賃金、賞与、1か月を超える期間の勤務成績で算定する精勤手当・能率手当などは例外です。通常の月例賃金を賞与名目に変えて支払いを先延ばしすることはできません。
支払日は一定の期日に固定する
「毎月25日」「毎月末日」のように支払日を特定します。「毎月第4金曜日」のように日付が変動する定め方や、資金繰りを理由に月ごとに変更する運用は避けなければなりません。
手続きと罰則
常時10人以上の労働者を使用する事業場では、賃金の決定・計算・支払方法、締切り、支払時期、昇給に関する事項を就業規則に記載し、労働者へ周知します(労働基準法第89条第2号・第106条第1項)。
労働基準法第24条に違反した場合は、30万円以下の罰金の対象です(同法第120条第1号)。
関連判例
- 日本勧業経済会事件(最高裁大法廷判決・1961年5月31日、民集15巻5号1482頁):労基法24条1項の賃金全額払の原則は、使用者が労働者に対して有する債権をもってする相殺も禁止すると判示しました。
- 福島県教組事件(最高裁第一小法廷判決・1969年12月18日、民集23巻12号2495頁):過払賃金の清算としての調整的相殺について、次の場合には例外的に許されるとしました。
- 過払いの時期と合理的に接着した時期に行われること
- 方法・金額等から見て、労働者の経済生活の安定をおびやかすおそれがないこと
よくある実務事例Q&A
過払いした手当を翌月の給与から精算できますか
昭和23年9月14日基発第1357号は、前月分の過払い賃金を翌月分で精算する程度の調整を、賃金計算に関するものとして扱っています。
ただし、無条件に控除できるわけではありません。過払い時期と合理的に近接した時期に、事前に労働者へ説明し、生活を脅かさない金額・方法で精算してください。福島県教組事件の判断枠組みも参考になります。
社宅費や社員旅行積立金を給与から天引きできますか
法令に根拠のない控除には、書面による賃金控除協定が必要です。協定で対象項目を具体的に定め、就業規則等の根拠も整備します。旅行積立金は任意性と返還条件も明確にしてください。
賞与の支給日を毎回変えてもよいですか
賞与は、毎月払い・一定期日払いの原則の例外です。ただし、就業規則や賃金規程で支給条件・算定方法・支給時期を定めている場合は、その定めに従う必要があります。
一次情報・参考資料




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