この記事の結論
労働者を解雇する場合、使用者は少なくとも30日前に予告するか、30日分以上の平均賃金(解雇予告手当)を支払わなければなりません。予告日数は、平均賃金を支払った日数だけ短縮できます。ただし、この手続を踏んだからといって解雇そのものが有効になるわけではなく、解雇の有効性は労働契約法第16条により別に判断されます。
条文の根拠
労働基準法第20条第1項 使用者は、労働者を解雇しようとする場合においては、少くとも三十日前にその予告をしなければならない。三十日前に予告をしない使用者は、三十日分以上の平均賃金を支払わなければならない。但し、天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となつた場合又は労働者の責に帰すべき事由に基いて解雇する場合においては、この限りでない。
同条第2項 前項の予告の日数は、一日について平均賃金を支払つた場合においては、その日数を短縮することができる。
予告日数と予告手当の3つの組み合わせ
(1) 30日前に予告する
予告した日は日数に算入せず、翌日から起算します(民法第140条)。4月1日に予告した場合、解雇日として指定できるのは5月1日以降です。土日祝を含む暦日で数えます。書面を郵送する場合は到達日の翌日起算となるため、発送日を基準に計算すると日数が不足します。
(2) 予告せずに即時解雇する
30日分以上の平均賃金を支払います。予告手当を支払わないまま即時解雇を通告しても、即時解雇としての効力は生じません。
(3) 予告と手当を併用する
20日前に予告し、10日分の平均賃金を支払えば要件を満たします。引継ぎの都合で30日を確保できない場合の現実的な選択肢です。
予告手当の計算と支払時期
平均賃金は、算定すべき事由の発生した日(解雇を通告した日)以前3か月間の賃金総額を、その期間の総日数で除して算出します(労基法第12条第1項)。賃金締切日がある場合は、直前の締切日から起算します(同条第2項)。日給制・時間給制・出来高払制の場合は、賃金総額を労働日数で除して100分の60を乗じた額を下回ってはなりません。
あわせて、控除・除外の規定を落とさないよう注意してください。業務上の傷病による療養のための休業期間、産前産後休業、育児・介護休業、試の使用期間は、期間と賃金の双方から控除します(同条第3項)。臨時に支払われた賃金と3か月を超える期間ごとに支払われる賞与は、賃金総額に含めません(同条第4項)。この処理を誤ると平均賃金が実態より低く算出され、予告手当も不足します。
即時解雇の場合、予告手当は解雇の申渡しと同時に支払うべきものとされています(昭和23年3月17日基発第464号)。併用する場合は、予告時に予告日数と手当で充当する日数を明示していれば、支払は解雇日までで足りると解されています。
予告が不要になる場合
労基法第21条により、①日日雇い入れられる者、②2か月以内の期間を定めて使用される者、③季節的業務に4か月以内の期間を定めて使用される者、④試の使用期間中の者には第20条が適用されません。
ただし、①は1か月、②③は所定の期間、④は14日を超えて引き続き使用されるに至った場合は適用されます。試用期間中でも15日目以降は予告が必要になる点に注意してください。
天災事変等による事業継続不能、または労働者の責に帰すべき事由による解雇は、所轄労働基準監督署長の認定(解雇予告除外認定)を受けて初めて予告が不要になります(労基法第20条第3項、労働基準法施行規則第7条)。様式は前者が第2号、後者が第3号です。認定を受けずに即時解雇すれば、除外事由の有無にかかわらず第20条違反となります。
違反した場合の罰則と付加金
第20条違反には、6か月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金が定められています(労基法第119条第1号)。なお「懲役」から「拘禁刑」への改正は、刑法等の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整理等に関する法律(令和4年法律第68号)により、令和7年6月1日に施行されています。
さらに裁判所は、労働者の請求により、未払いの予告手当と同額の付加金の支払を命じることができます(労基法第114条)。請求期限は違反のあった時から5年以内(当分の間3年間。同法附則第143条第2項)です。
補足:予告手当は賃金ではない
予告手当は労働の対償ではないため、賃金には当たりません。税務上は退職所得として扱われ、源泉徴収の対象になります。一方、社会保険料・労働保険料の算定基礎には含めません。給与と同じ処理をすると、控除と源泉徴収の双方を誤ることになります。あわせて、予告手続を適法に踏んでも解雇の有効性は別途争われる点を、依頼者に伝えておく必要があります。
よくある実務事例Q&A
Q. 30日前に解雇予告をした従業員から、2週間後に「新しい就職先が決まったので予定日より前に辞めたい」と申出がありました。引継ぎの目途もついており応じる予定ですが、解雇日が前倒しになる分、解雇予告手当を支払う必要はありますか。
A. 本人の申出による退職であれば、支払う必要はありません。解雇予告後であっても解雇日までは雇用関係が存続し、会社は勤務を求めることができます。労働者が自らの意思で予定日より前の退職を申し出て会社がこれに応じた場合は、前倒しになった期間について予告手当の支払義務は生じないと解されています。ただし、後日「実際は会社から辞めさせられた」と争われる余地があるため、退職日の変更は本人の申出であることを退職願または合意書で残してください。会社側から前倒しを求める場合は解雇日の変更にあたり、不足日数分の予告手当が必要になります。
Q. 1か月後を解雇日として解雇予告を行いましたが、その後臨時の大口受注があったため、解雇日をさらに10日ほど遅らせる(延長する)ことにしました。この場合、当初の解雇予告の効力はそのまま維持されるのでしょうか。
A. 維持されません。解雇予告の意思表示を使用者が一方的に撤回・変更することはできず、解雇日を延ばすには労働者の同意が必要です。同意を得て延期する場合も、延期後の日を解雇日とするには、その時点から改めて30日前の予告または不足日数分の予告手当が必要になります。また、当初の解雇日を過ぎたまま引き続き就労させた場合は、同一条件で新たな労働契約がなされたものとみなされ、当初の予告は効力を失います。いずれの場合も予告手続の取り直しが前提です。
Q. 30日前に解雇予告をした従業員が、予告の10日後に業務中の事故でケガをし、療養のため休業することになりました。業務上災害による休業期間とその後30日間は「解雇制限」がかかると聞きましたが、すでに解雇予告済みの場合はどうなるのでしょうか。
A. 解雇予告自体は無効になりませんが、解雇制限期間が経過するまで解雇の効力発生が停止されます。労基法第19条により、業務上負傷し療養のため休業する期間とその後30日間は解雇が制限されます。予告期間中にこの事由が発生した場合、当初の予告期間が満了してもその時点では解雇できず、制限期間が明けた後に効力が発生します。改めて予告をする必要はありませんが、休業が長期にわたり予告としての効力を失うと認められる場合は取り直しが必要です(昭和26年6月25日基収第2609号)。なお、制限がかかるのは「療養のため休業する期間」であり、通院のみで休業しない場合は該当しません。療養開始後3年を経過して打切補償を支払った場合も制限は解除されます(労基法第19条第1項ただし書、第81条)。この解除は、使用者が直接補償している場合に限らず、労災保険から療養補償給付を受けている労働者にも及びます(専修大学事件・最高裁平成27年6月8日判決)。ただし制限が解除されても解雇が有効になるわけではなく、有効性は別に判断されます。
関連判例
細谷服装事件(最高裁 昭和35年3月11日判決)
予告期間を置かず、予告手当も支払わずに解雇を通知した事案です。最高裁は、その通知は即時解雇としては効力を生じないものの、使用者が即時解雇に固執する趣旨でない限り、通知後30日の期間を経過するか、通知の後に予告手当を支払ったときは、そのいずれかの時から解雇の効力を生じると判断しました。あわせて、付加金の支払義務は裁判所の命令によって初めて発生するため、命令前に使用者が支払を済ませて違反状態が解消していれば、労働者は付加金を請求できないとしています。
参考資料・出典
- 労働基準法(昭和22年法律第49号)
- 労働者災害補償保険法(昭和22年法律第50号)
- 労働契約法(平成19年法律第128号)第16条
- 厚生労働省「確かめよう労働条件」労働条件Q&A(解雇予告期間の計算・解雇予告手当の計算方法と支払時期)
- 昭和23年3月17日基発第464号(予告手当は解雇の申渡しと同時に支払うべきもの)
- 昭和26年6月25日基収第2609号(予告期間中に解雇制限事由が生じた場合の効力)
- 細谷服装事件(最高裁 昭和35年3月11日判決。昭和30年(オ)第93号、民集第14巻第3号403頁)
- 専修大学事件(最高裁 平成27年6月8日判決。平成25年(受)第2430号、民集第69巻第4号1047頁)
- 平成27年6月9日基発第0609004号「労災保険給付を受けて休業する労働者に対する解雇制限にかかる判決について」(専修大学事件の判決文全文を掲載)|厚生労働省法令等データベース




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